ミツルがアルバイトをしているコンビニの昼時は、多くのランチ難民で長蛇の列になる。
東京駅周辺のオフィス街にあるため、日本を動かしている?サラリーマンで溢れかえるのだ。
12時~13時の間は、3つあるレジから一歩も動くことはできない。
細かい小銭を確認し、電子マネーの種類を訪ね、銘柄を言われてすぐに番号のふられたバックヤードの煙草に手を回す。
4台ある電子レンジは常にフル稼働しており、稼働中のドアには各お弁当のソースや醤油の小袋が張り付けられている。一緒に温めてしまうと袋が破裂してしまうからだ。
このピーク時を1つのミスなくこなしている自分が、この世界を動かしているような気にさせてくれる。
ミツルはランチ時のピークが好きだった。
どうせ仕事をするのなら、ダラダラと暇な時間が続くより、ゾーン状態に入れるほどの忙しさのほうが良い。
13時半ころになると2台のレジは閉ざされ、一人は売り場整理へ、もう一人は昼休憩に入る。
そこからは夕方に軽いピークは来るものの、配達されてくるお弁当やパンなどの商品を棚に並べたり、掃除をしたりとルーティンをこなす時間帯となるのだ。
そして店が落ち着いてきた14時ごろ、小さなおじさんは現れる。
150センチほどの背丈に、ぽっちゃり体系、頭はハゲ上がっていて、歯はほとんど無い。いつもリュックを背負っていて、カジュアルだが小綺麗な格好をしている。
いや~、やっと辿り着いたよ
七福神のようにニンマリ微笑みながらそう言うと、いつものようにビールとおつまみを買いイートインコーナーの隅に座り飲み始めた。
365日、同じルーティンで生活しているというこの小さなおじさんとミツルは仲が良かった。
イートインで数時間居座るため、他のスタッフからは煙たがられていたが、ミツルはバイトが終わってからも一緒にイートインでビールを飲むことも度々あったのだ。
ミツル君、私は妖精なんだよ。
あるとき、小さなおじさんが話してくれた。
ミツル君にはそれが見えるんだね。今までの行いが良かったのだろう。
とくに思い当たる節はなかったミツルに対し、小さなおじさんは続けた。
例えば、虫などの小さな命も大切に考えてないかな?
それは確かにそうだった。
家の中にクモや蛾(ガ)などが入ってきても、捕まえて外へ出してあげる。最近ではゴキブリでさえ手で捕まえて逃がしてあげていた。
そういうことの積み重ねでミツル君の次元が一つ上がったのだと思うよ。虫やその他の生き物もすべて妖精なんだよ。
しかしある人にとっては汚いものに見え、怖いものに見える。そして簡単に潰してしまうんだ。
私だってそうさ。ある人には不必要な人間に見えているんだよ。
だが、君は違う。私をちゃんと見てくれている。
このことはとても大切なことなんだ。
小さなおじさんが言ったその言葉の意味をミツルには理解ができた。
ミツルは小さなおじさんへ言った。
『おじさんが妖精だってことはわかったよ。
でも僕はそういった能力がほしいわけではないんだ。もっと自由になりたい。もっとたくさんお金もほしい。そんなことを思っているいやらしい人間だよ。』
ミツルは自分の考えを伝えた。
それは決して悪い考えではないし、いやらしくなんてないよ。
それは誰だって思うことさ。
ただみんなやり方を知らないだけなんだ。法則をね。
小さいおじさんは七福神様のようにニンマリ微笑みながらいった。
ミツル君にはその資格があるだろう。
つまり、うまく使いこなせるだろうという意味だ。
ミツルは答えた。
『是非教えてください。その法則を。』
この日から小さなおじさんによる宇宙の法則レッスンが始まったのだ。
小さなおじさんはいくつもの会社を持っているオーナーであった。
人を見た目で判断してはいけないよ。
そう言いながらキリン一番搾りをおいしそうに一口飲んだ。
小さなおじさんはビール以外のアルコールは飲まないという。
では、今日は初めに、一番大切は事を教えてあげよう。
それはまず、ミツル君がやりたいことを知ることだ!
どんなすごいことを教えてくれるのかと期待をしていたミツルは拍子抜けする。
おいおい、そんな顔をしないでおくれ。 これはとても大切なことなんだよ。
小さなおじさんは続けた。
例えば、カーナビをイメージしてごらん。
ミツルはカーナビの例えが古いと思いながら、グーグルマップをイメージした。
行きたい場所に行くにはまず何をするかな?
そう、目的地を設定しなくてはいけない。
目的地さえ設定が済んでいれば、いくら曲がる場所を間違えようが、最終的には必ず到着させてくれるんだ。
ミツルはそのことを理解していた。
しかしあまりにも単純過ぎるのではないか。
では聞くが、ミツル君のいう自由でお金持ちというのは一体何屋さんかな?
ミツルは考えたが、すぐに答えることができなかった。
そこが一番大切なんだよ。
お金は空から降ってくるわけではない。
何かで稼ぎださなくてはならない。その何で稼ぐかを明確にしないことにはカーナビも指示することはできないんじゃないかな?
ミツルはそのことに納得した。
僕はずっと頑張ってきた。しかし今もまだこうしてコンビニのアルバイトを続けている。
そしてこれから先も行く方向がわからずにいたのも事実だった。
まずは目的地を決めなさい。
そしたらまた話そうじゃないか。
小さなおじさんと別れたミツルは、その日から目的地を決めるために時間を費やしていくことにした。
続きへ:妖精は小さなおじさん-【②】-
-自叙伝-
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