前回へ:妖精は小さなおじさん-【⑥】-


木崎は全速力で走っていた。

『また、待たせてしまう。』

水道橋駅から神保町方面に走りながら木崎はそうつぶやいた。

ようやく会社に到着し、エレベーターで3階にある応接室へ向かった。

ドアを開けるとそこには、ミツルが座っていた。

 

『先生、すみません。またお待たせしちゃいまして。』

宇宙出版の社長である木崎は、自ら営業や取材にも立ち会う現場主義の社長である。

長身でガッチリした体系、髪は短髪に整っていて
いかにも体育会系の木崎は、いつもスーツ姿でビジネスマンの象徴とも見える格好だ。

胸のポケットにはチーフが添えられている。

いつもスケジュールを詰め込んでいるため、相手を待たせることでも有名な男だった。

今日は、ミツルの最新本の打ち合わせを予定していた。

 

 だから木崎さん、
その【先生】って呼ぶのはやめてくださいよ。

 

 作家となっていたミツルは、
すでに数本の作
品をこの宇宙出版から世に出しており、
どの
作品も木崎本人が担当していた。

 

『なにをいいます。先生が弊社を選んでいただいたおかげで、うちの業績は改善されたんですよ。
先生というのが嫌なら、福神様と呼
ばせていただきます。』

 

 ミツルよりも一回り年上の木崎は
いつもこの
調子である。

 それを聞いたミツルは、まだ先生と呼ばれるほうがマシだと思った。

 

 ミツルと木崎の出会いは2年ほど前になる。

 コンビニでアルバイトをしながら、小説を書いていたミツルは、
ブログや投稿サイトへ自
身の作品を載せていた。

 するとあるとき、ミツルのブログへメッセージが届いた。

 

 先生、是非とも先生の作品をわが社から出版させていただけないでしょうか。

 

 これが木崎との最初のコンタクトだった。

 木崎はミツルのことを初めから先生と呼んできたのだ。

 ミツルもそのメッセージに対応し、木崎の会社へ訪ねることとなる。

 

『しかし先生と初めて会ったときの話は鳥肌が立ちました。小さなおじさん妖精の。』

 

 ミツルはコンビニで働いているときの話を木崎にも話していたのだ。
そしてそこから小説
を書き始めたことも。

 

 いくつもの出版社へ作品を応募するも返答がなかったミツルにとって、木崎からのメッセージはうれしかった。

 同時に木崎も、まだどこの出版社とも契約をしていないミツルの才能を見抜いていたのだ。

 

 こうして木崎にスカウトされる形で始まったミツルの作家人生は、
一作目から大ヒットを
し、木崎のプロディサーとしての天性も出版業界へ広まったのだ。

 

 『先生、今日は一つお願いがあります。』

 木崎が提案を始めた。

 『来月、国際フォーラムでわが社の20周年イベントがあります。

 そこで先生にスピーチをお願いしたく思います。』

 

 ミツルは唖然としていた。

 ただでさえ団体行動が苦手なのに、人の前でスピーチをするなんて考えられない。

 しかも宇宙出版の周年イベントへは去年も参加したが、国際フォーラムを借りるほどの人数が集まるのだ。

 

 木崎さん勘弁してください。

 あんな大きなイベントで僕なんかが話したところで、誰も聞いてはくれませんよ。

 

 ミツルがそう返してすぐ、木崎がまっすぐな視線を向けて言う。

 『先生、私はこの仕事を愛してます。人生をかけてやってきました。
 そして先生と出会っ
たときに感じました。この人は大物になる。

  この人を必要としている人がたくさんいると』

 

 木崎の目は真剣だった。

 そして提案を通すためにウソを言う男ではないこともミツルは知っていた。

 同時にこのモードになった木崎が引くことはない。

 

 わかりましたよ。

 僕でいいならスピーチさせていただきます。

 でも知りませんからね。どうなっても。

 

 こうしてミツルは宇宙出版の20周年イベント
専属作家としてスピーチをすることとなっ
た。

 

 

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