前回へ:妖精は小さなおじさん-【⑪】- 


よろしい。

 ではさっそく出発と行こうじゃないか。

 少し長い旅になるが安心しろ。

 長いと言っても時空のことではないからな。

 

 そういうと妖精はミツルの目を閉じさせた。

 しばらくは真っ暗な中にいたミツルだが、少しずつ辺りは明るくなり、ハッキリとした景色が見えてきた。

 しかしミツルの目は確かに閉じたままである。

 そのはずなのに、辺りの様子がハッキリと見えるのだ。 

 

 さあ着いたぞ。

 というのはお前さんの脳の中にという意味じゃがな。

 今見えてるのが2600年の東京じゃ。

 

 東京ですか?これが?

 ミツルは驚きが隠せずにいた。

 あたり一面が森林となっており、ビルが立ち並ぶ現在の光景とは別物であったからだ。

 

 驚いたかな。

 これがお前さんたち人類が選んだ未来じゃよ。
 車が空を飛んでいるとでも思っていたかな。

 

 妖精はそういうと意地悪そうに笑った。

 ミツルも妖精が言ったことと同じ未来を想像していた。

 ハイテクな高層ビルが立ち並び、車は空を飛び交い、どこか冷たさを感じる未来を。

 

 お前さんが考えている未来も確かに存在する。しかしそれはお前さんが描く書物によって書き換えられることになる。

 人類はどちらの選択肢も経験することができるのじゃ。

 

 東京がこのような自然になったのであれば、アメリカやその他の都市はどうなってるのですか? 

 

 結論から言えばすべて同じような自然が広がっておる。

 だがそこにはアメリカや都市などは存在しないがな。

 

 アメリカがない?

 ということは中国が世界を制覇したのですか?それともロシア?

 

 そうではない。

 国という国境なんてものがないということじゃ。

 確かに人々の中にはアメリカや中国などの大陸という認識はある。歴史としてな。

 しかしそこに国境もなければ国籍などという概念もないのじゃよ。

 

 国籍がない?

 ミツルは理解するのに時間がかかっていた。

 世界が一つになったというならわかる気がする。
しかしそれを統一している組織がないと
いう。

 『じゃあ主要通貨は?ドルではないのですか?』

 困惑しながらミツルは質問した。

 

 いきなり600年が過ぎたのじゃ。

 ゆっくり説明してやろう。

 統一している国が無いわけだから主要通貨はドルではない。

 というより、この世界に通貨という概念は必要ないのじゃよ。

 人々はテレパシーによって繋がっている。

 それはつまり嘘は付けないということじゃ。お互いが嘘もなく正直に繋がれる今、お金や国境などは必要ない。

 この意味がわかるかな?

 

 ミツルはそのことを考えた。

 お金は汚いものだと昔、父親が言っていたことを思い出す。

 子供心にそれは不潔を意味することではないことを理解していた。

 国の存在にしてもそうだ。

 強い大国は、弱い国を守ってはくれない。

 それどころか強さを武器に事を優位に進めてくる。

 ミツルは妖精が言っている意味がわかる気がした。

 

 資本主義というのは、特定の誰かが優位になるように作られておる。

 それはそれでうまく使えればいいのじゃが、問題は不必要のものが増えることにある。

 お金を稼ぐために、もう十分行き渡っているものをも生産し続ける。

 残飯となることがわかっているのに食品は生産され、その中には動物の命も含まれておる。

 そのことに気づいた一部の人間はベジタリアンとなり抗議をするが、根本が変わらねば焼け石に水じゃ。

 そして稼いだお金に満足するのは一瞬だけ。

 さらなる大金を求めて生産を繰り返す。

 この行きつく先になにが待っとるかな?

 同じ地球に共存している仲間、すなわち動物や資源と言われているものを削って貨幣に変える無能な世界。

 人類はこのことに気が付くことができた。あともう少し遅かったら手遅れになっとったじゃろう。

 

 ミツルは質問を続けた。

 でもすべてを管理する組織はあるんですよね?

 いや、そんなものはない。

 世界のすべての人々は自由で、管理されてなどいない。

 そもそも隠しごとができない以上、管理など必要ないのじゃよ。

 しかし各々の場所にはリーダーとして持っている能力を生かしている者がおるのも事実じゃ。

 人を導く能力がある者がそれをする。

 そして大小に限らず、すべての人に何かしらの能力はあるものじゃ。
 それを与え合って生きる道を人類は選んだのじゃ。

 

 人それぞれの能力を分け合って生きていく。

 素晴らしい…。

 ミツルは感動していた。

 今まで生きていてずっと詰まっていた何かが取れたような爽快な気持ちでもあった。

 『人類にこんな未来が待っていたとは、希望が持てました。』

 

 まだ安心するには600年早いわぃ。

 お前さんが創る書物を巡って、これからさまざまな争いが起こるじゃろう。

 そしてそれを無事に乗り越えることができれば、
 つまり人類がこの未来を選ぶことができればの話じゃ。

 

 僕の書く本を巡る争い?

 それはいったい…。

 そう言いかけたときミツルは目まいがした。

 なんだか呼吸が苦しく感じる。

 

 初っ端にしては長いことアクセスし過ぎてしまったようじゃ。

 今日はこの辺にしておこう。

 

 妖精がそう言った瞬間、目の前の景色は消え、辺りは暗闇となった。

 

 目を覚ましたミツルは、仕事部屋のデスクでうつ伏せに寝ていた。

 時計を見ると、夕食のパスタを食べ終えてからそんなに時間が経っていない。

 ノートパソコンの横にあるマグカップからは湯気と一緒にコーヒーの香りが漂っていた。

 ミツルは妖精の話を思い出した。

 

 少し長い旅になるが安心しろ。

 長いと言っても時空のことではないからな

 

 時空ではない旅…。

 ミツルはそう呟いた。



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-自叙伝-
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