前回へ:妖精は小さなおじさん-【㉓】- 



 二人は缶ビールで乾杯をした。

 なるほど。

 それは面白い内容の小説だな。

 俺たち人類は発展と後退を繰り返してるという発想か~。

 

 ミツルは質問した。

 行き過ぎた発展を辞めることは考えられるけど、再度発展へ向かう人類の動機が見当たらないことを。

 

 う~ん。

 それは俺の人生で考えるとわかりやすいかもな。

 会社の経営をしていた頃は、会社を大きくしようとがむしゃらだったよ。

 休みなく働いていたものだ。

 しかしある時点で気づいた。

 このままどこに向かっていくのかと。

 この話は以前にもしたね。

 

 ミツルはうなずいた。

 

 では今の俺のテント生活が古代民族だとすると、俺はどうしたらまた資本主義を目指すかってことだよな。

 そうだな。

 それはなにか、こう、知恵を与えられたときかもしれないな。

 寒い時は焚火をして暖をとるだろ。

 でもそこに暖房みたいな機械があれば欲しくなる。

 そしてそれを使うのに金が必要なら働く世界に戻る可能性はあるわな。

 

 知恵を与えられる…。

 ミツルは禁断の果実を思い出していた。

 創世記にて、エデンの園にいたアダムとイヴは、その楽園にあるすべての果実を食べることは許させていたが、たった一つだけ食べてはいけないとされていた果実があった。

 ヘビにそそのかされてイヴはそれを食べてしまうという話だ。

 

 おじさんは続けた。

 

 禁断の果実とは、いけないとされていることを理解するがゆえに、さらにそのことをしたくなるという人間の中の一面を表している。

 怖いもの見たさってやつだな。

 人間には道徳心が備わっている。

 どんな環境でも順応でき、その環境での良し悪しを理解できるんだ。

 しかしときより、そこにヘビが現れることがある。

 そいつが悪さをするんだよ。

 

 ミツルはそのことを理解できた。

 現代でもニュースで見られる不祥事は不倫や汚職がほとんだ。

 ヘビは誰しもの中に存在しているのだ。

 おじさんは続けた。

 

 ミッチーがいう永遠の愛の世界とは、エデンの園なのかもしれないな。

 俺たち人間は、アダムとイヴのように元々はエデンの園にいた。

 追放された今もそこに戻ろうとしているのかもしれない。

 

 ミツルは質問した。

 エデンの園とはどういうところなんでしょう。

 

 それは子供の心と同じ場所さ。

 俺たちは元々エデンの園に居たって言っただろ。

 だからこそ、そこに戻ろうとしてるって。

 だとしたらそれは子供に戻るってことさ。

 自分の世界を持っていた、周りを気にせずに夢中で生きていた子供にな。

 

 ミツルはおじさんのいう仮説が納得できた。

 僕たちはみんな子供の頃を体験している。

 いつの間にかその世界から追放されてしまうわけだが…。

 おじさんは続けた。

 

 一つ面白い話をしてあげよう。

 昔、釣りが大好きな男がいた。

 その男は毎日のように海で好きな釣りをしていた。

 好きなことに夢中だった男は、釣りの才能に優れていたんだ。

 釣った魚を自分で食べるだけでなく、村の人にも分けてあげた。

 そして野菜や衣服を代わりに頂いていたんだ。

 あるとき遠くの国から異人がきた。

 異人は男に話を持ち掛ける。

 『そんなに釣りがうまいなら一緒に商売をしないか?

 すると男は質問した。

 商売をしたらどうなるんですか?

 異人は答えた。

 『商売をすればたくさんの金貨が手に入るぞ

 それを聞いて男はまた質問した。

 金貨がたくさん手に入ると何ができますか?

 異人は答えた。

 『金貨がたくさんあれば働くことなどしなくていいんだ。毎日好きなことをして暮らせるんだぞ。さあ、あなたの好きなことはなんだね。

 男は好きなことを考えて答えた。

 毎日釣りがしたいです…。

 

 おじさんは続けた。

 

 この話でもわかるように、俺たちは夢中でのめり込める状態を望んでいるんだと思うんだよ。

 その結果で衣服や野菜などの産物を得れることはいい。

 しかしいつのまにか金貨を稼ぐことが目的になってしまうんだわな。

 この異人であり、ヘビでもある存在がミッチーの言う資本主義をコントロールしている奴なんだろうな。

 

 ミツルは気が付いた。

 妖精が言っていた意味がわかったのだ。

 資本主義をコントロールしている人間。

 それは特定の誰かがいるわけではない。

 僕たち一人一人の中に存在しているんだ。

 その異人であり、ヘビでもある一面は、僕らの中で常にそそのかせるタイミングを狙っているのだ。

 僕たち人類は幸せを求める。

 そのためにさまざまな方法を考え実行してきた。

 便利なものを多く作ってきた。

 しかしときには、幸福よりも善良であることのほうが必要なのかもしれない。

 人類は幸福を求めて進化を続ける。

 しかしその延長線上には幸福がないことに気づく。

 すると後退した思想が世の中で流行りだし、そのタイミングで世界規模の災害などが起きると民衆は行動を起こす。

 一つとなり行動を起こした民衆には、すでに政府や権力では統制不可能となり歴史が変わっていくのだ。

 そして人類が求めているエデンの園とは、浮浪者のおじさんが言う子供の頃の記憶なのかもしれない。

 

 おじさんは続けた。

 

 俺も今はこうしてテント生活をしている。

 でも初めの頃は惨めに感じたものだよ。

 俺の人生も終わったなってな。

 でもそれによって、プライドというか、見栄みたいなものが無くなったんだ。

 すると見える景色が一変したんだよ。

 今までは世の中を色眼鏡を通してみていた。

 しかし今ではリアルに目の前の物事が見えるんだ。

 それはある意味では、知恵の実を食べる以前の状態に戻ったのかもしれないな。

 素っ裸でも恥ずかしいと思わないアダムとイブのように。

 

 そう言っておじさんは笑っている。

 しっかりと洋服を着た上で。

 

 だから俺はその世界に入れたのかもしれない。

 永遠の愛の世界ってところに。

 ミッチーだってそうさ。

 こんな俺と仲良くしてくれている。

 外見や身分に関係なく、リアルな世界が見えている。

 ミッチーも永遠の世界にいるんだな。

 だから妖精が時より見れるんじゃないかぃ。

 

 浮浪者のおじさんはニンマリ微笑んでミツルを覗き込んでいる。
これが小説の話ではないことを見透かしているかのようだった。

 

 ミッチー。その書物を完成させるんだ。

 人類が求めていることを伝えるんだ。

 そしてそれを手に入れるには、自分の中にいるヘビを退治するということをな。

 

 おじさんは真剣な顔でもう一言付け加えた。

 

 ビールもう一本もらうぜ。 

 

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-自叙伝-

人生のレールを脱線してみた僕の半生記~Life is a journey~

  
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