松




東京生まれの僕は、結婚を機に島根県に移住した。

海も山も湖もある島根。

この環境に僕は満足している。


僕ら夫婦は、古民家を借りている。

目の前に住む大家さん夫婦はとても素敵な方だ。

お母さんはいつもニコニコしていて、ちびまる子ちゃんのおばあちゃんのようだ。

お父さんは面倒見がいい兄貴肌で、酒飲みという昔の男である。

お父さんとは何度もお酒をともにした。

古民家に隣接している畑で採れた野菜やお花を頂くこともある。

お母さんは花を摘み、お父さんは松の木を手入れしている。

毎日、そんな風景を眺めながら僕らは生活してきた。

とてもゆっくりと時間が流れる。

この世界に僕ら以外はいないかのような静かな日常を味わえていた。


少し前のこと。

庭にいたお母さんが話し始めた。

『孫がここに家を建てたいというの。私たちもそう長くはないしね。少し音がうるさくなると思うけどごめんね。』


お孫さんにも2人のお子さんがいる。

近くに住んで、ババ達に子供の面倒をみてもらいたいのだろう。

まだまだ元気な大家さん夫婦だが、近くに家族がいるほうが安心するだろう。

しかし僕は思った。

畑や松の木の世話がもうできなくなることを。

あの時が止まった時間をもう見れなくなるのだと。



それから一ヵ月ほど経った今日のこと。

お父さんが大切に世話してきた庭の松の木が業者へ渡される。

ゴミ出しのため、玄関をでた僕。

すると隣の庭には、松の木を手入れするお父さんと、それを写真に収めるお母さんの姿があった。

『おはようございます。最後の手入れですね。』

僕が声をかける。

おう!少しでもきれいに渡したいからのう。

ニッコリと微笑んでお父さんが答えてくれた。



形あるものはすべて壊れる。

諸行無常…。

そしてこの地で、お孫さん家族が新しい形を作っていく。

そしてそして、

そんなことは気にもせず、今日もEARTHは周り続ける。

愛をもって。

 


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宇宙の法則を伝える小説を2つ書いてます。是非お読みください^^

-自叙伝-
人生のレールを脱線してみた僕の半生記~Life is a journey~  


-小説-
妖精は小さなおじさん
 


-同時に読んでほしい記事-【Why?なぜ…】  

   

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