夢男



東京は下町・亀戸。僕の故郷だ。

僕は30年間、この街に住んでいた。

友人・知人と呼べるほとんどの繋がりは、下町で築かれたものだ。

下町気質の野郎達は、なかなかのぶっ飛んだ人種が多い。

”外”に出たことにより、僕はそのことを改めて感じている。 

つまり僕が”こんな”なのも、大して不思議ではないというわけだ。

僕なんかに負けない”色”を持った輩達と繋がってきたのだから…。

久しぶりに電話をかけた後輩もその一人である。

数コールで電話にでた彼は、当たり前のように会話の手動権を取りにくる。


『おっ、稲くんから電話ってことは、戻ってくるのかな?東京に?』


僕がまだ何も発していないのに、この調子だ。

しかも皆さんが想像しているテンションの10倍ほどのボリュウームである。



- 孫 るい -

一つ年下の後輩だ。

お分かりのように彼は日本人ではない。

中国人の両親を持つ彼は、小さい頃から日本で暮らしている。

しかし国籍は変えずに中国籍のままで。

ヤンチャでぶっ飛んでいる友人の一人だ。

成人してからも、中国やアメリカに住んでいたこともある、ユニークな経歴の持ち主でもある。

そんなこともあり、彼が僕に敬語を使うことはない。

そしてバシバシ意見も言ってくる”生意気さ”がある後輩なんだ。

このブログで紹介することを、本人には伝えずに書いている。

だって僕は、”先輩”なのだから…。



コロナが落ち着くまでは東京には帰らないことを伝えてから、彼に仕事の件を話した。

今は別の仕事をしている彼であったが、当時のことを思い出しながらアドバイスをくれた。

税金のことや労働時間のこと、不在時の再配達が一番厄介だということなどをすべて教えてくれた。

そして自分たちが”仕事を振る側”に立つことはできないかなど、彼と話すと昔から話題が展開していくのだ。

ビジネスの可能性について議論することは、僕らにとっては普通のことであった。


しばらく話していると、いつの間にか僕のSNSのことに会話の内容は変わっていた。

これからは個人が発信をしていく時代だ。

自分の”色”を表現することで、可能性は広がっていくと僕は考えている。

ブログやインスタグラムも毎日のように利用していた僕に、彼はボソッと意見を言った。


『俺も稲くんの生き方は面白いと思うよ。スゲー自由に生きてるし、行動派だしさ。
でも、見ててなんか、カッコイイんだよね。
もっと…こう、あるじゃん?誰にでもさ、カッコ悪い部分が…。
そこが見えないと、なんかね~って思うよ。芸能人じゃないわけだからさ。』


僕はこの言葉が突き刺さった。

彼が言いたいことがよくわかる。

同じことを考えた記憶もある。

個人が自由に発信をできるようになった。

自分を発信するからには、綺麗でカッコよく見せたいものだ。

世界で一番、幸せで豊かだと映したいものだ。

それはそれで良いことだと思うし、人として当たり前なことだろう。

でも僕は、哲学的な思想を持っている。

それを発信し、多くの人に広めたいと考えている。

宇宙に存在する法則を理解し、”何も問題ない”ということを伝えていこうと決めている。

その僕が、”切り取った良い絵”ばかりを発信していくことは正解だろうか。

もっと生身の僕を見せていかなくてはいけないのだと、心の中では知っていた気がする。

しかしそれは、とても勇気がいることだ。


『もちろん勇気がいることだよ。でも稲くんがやりたいことってそれなんじゃないのかな?みんなが見たい部分もそこなんだと思うよ。』


彼の言う通りかもしれない。

良い時も悪い時も、もちろん伝えられる範囲にはなるが、そういった発信者になりたかったんだ僕は。

人生とは、悪い時やカッコ悪い部分も含めてなのだと。



彼との電話を切ってから、僕はしばらくの間、ワクワクが止まらないでいた。

今まで引っかかっていた、トゲのようなものが取れた感覚だった。

それは精神的な制限があるカゴの中にいた自分が、そのカゴの正体を見つけたような感じだと表現できる。

僕を苦しめていたのは、このカゴだったんだ。

そしてこれは、すべての人に言えることなのかもしれない。



僕はブログを開いた。

この気持ちがあるうちに書いておきたいと思ったからだ。

タイトル欄に文字を打ち込む。


【僕は無職で夢男…。】






つづく。




次回: 僕は無職で夢男⑩~悟りの人~

前回: 僕は無職で夢男⑧~仕事を見つける~

最初から読む: 僕は無職で夢男①


○会社を辞めキャンピングバスで旅した実体験小説
人生のレールを脱線してみた僕の半生記~Life is a journey~ 


○宇宙の法則をテーマに書いた小説 
妖精は小さなおじさん


○人生の真理を表現した短編小説
幸せの映画館


○小説以外も毎日更新している僕の考え方
宇宙には法則があるんだよ



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